次世代型スーパーマーケットTRIALの挑戦(2/3)
2019.02.18
次世代型スーパーマーケットが導入したAIの詳細に迫る! サイエンスする“流通の最前線”の熱いレポート第二弾。
次世代型スーパーマーケットTRIAL
消費行動が「論理」ではなく「心理学」の領域に突入した今の時代に、消費者の心理に直結するシステムとサービスを打ち出すことで、新しい小売業の在り方を実現している画期的なスーパーマーケットがあることをご存知でしょうか。
2018年2月14日、福岡市東区にある埋め立て地「アイランドシティ」にオープンした24時間営業の都市型店舗『スーパーセンタートライアル アイランドシティ店(以下、TRIAL)』です。
出店したのは九州を中心にスーパーやドラッグストアなどを展開する「トライアルカンパニー」。従業員専用のモバイル端末や、ポイントカードによる購買データの収集など積極的なIT導入で急成長してきたトライアルカンパニーが満を持して出店したTRIALには、スーパーマーケットが抱える難題を解決するための最先端のテクノロジーが満載。まさに「次世代型スーパーマーケット」と言えるでしょう。
700台に及ぶAIカメラ
TRIALに足を踏み入れた瞬間に驚くのは無数のカメラが天井から吊り下げられている光景です。店内には「スマートカメラ(AIカメラ)」が天井や商品棚に設置されており、その数は約700台。そのうちの約600台は陳列棚と商品に向けられており、商品棚の陳列状況を分析しています。陳列棚の変化を解析することで、商品が棚からカートに入れられたり、または棚に戻されるなどの購買行動が把握されます。そうやって顧客の購買行動を可視化することで、売れ筋商品や陳列方法と購買との関係などが分析されているのです。お客様の購買行動だけでなく、商品の欠品なども認識されるので「欲しい時に買えない」というお客様の不満を解消すると同時に、機会損失をなくすことにも一役買っています。
残りの約100台は人間を認識しており、来店後に特定の場所を通過した人数や性別、年代などを推定したり、来店客の商品への接触度などを分析するために活躍しています。カメラは広い店内をくまなく狙い、店内に死角はありません。
人を認識するカメラはパナソニック製、そして商品の認識にはスマートフォンをベースにした独自開発のカメラが使用されているのが特徴です。型落ちスマホをAIカメラに転用することでコストを抑えていますが、スマホは型落ちしているだけで決して性能が損なわれるわけではありません。AI処理にはオープンソースソフトウェアを活用とのことです。
カメラは威圧感を感じさせないデザインで店内にくまなく設置され、来店客のプライバシーを配慮しながら稼働しています。またAIカメラは防犯面での「静かな抑止力」としても機能しており、店内スタッフの人数を最小限に抑えながら、最高のポテンシャルを発揮しています。
スマートレジカート
店内で使用されているカートにも大注目です。お客様が買い物に使っているのは、タブレット端末によるディスプレイを搭載した100台以上の「スマートレジカート」。無人レジを実現する画期的なカートです。お客様は、事前に購入したプリペイドカードをカートに読み込ませた後、店内で買い物をしながら商品のバーコードをスキャンしてカートに登録していくだけで決済ができるのです。
カートのディスプレイにはお客様のプロフィールや購入商品を参考にして、商品やクーポンなどのレコメンドが表示されます。料理のレシピから必要な食材をレコメンドしたり、「いつも購入している商品」の買い忘れを教えてあげるなど、お客様に寄り添ったサービスが満足度を高めています。多くの来店客が、タブレット画面を覗きこんだり、指で画面をタッチ操作しながら買い物をしている姿が印象的でした。
入口や店内に設置された液晶マルチディスプレーに表示される商品情報と併せて、スマートレジカートの液晶モニターは「店舗自体がメディア化しているイメージ」を鮮烈に描き出していると言えるでしょう。消費者の購入意欲を高めるカギと言われている「情報」を巧く使いこなしていることがTRIALならではの強みなのです。
全ての商品を購入した後、スキャン漏れの商品をチェックするために店員が最終チェックをしますが、スマートレジカートの導入により有人レジは劇的に減少しました。このことで、レジスタッフの人手不足解消を図ると同時に来場客がレジに並ぶ手間も大幅に削減することができたのです。
(次回に続く)次世代スーパーマーケットTRIALの挑戦(3/3)
TRIALのどこが革新的なのか?
そして、未来の流通はどのように変わっていくのか?
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