『データサイエンティスト列伝 ~偉大な先輩に聴く~』 第一回 川村秀憲 教授(1/4)

2019.03.22

偉大な先輩DS(データサイエンティスト)に過去や未来を聴く『データサイエンティスト列伝』。

記念すべき第一回目は、北海道大学大学院情報科学研究科の川村秀憲教授をお迎えしました。

川村先生は多数の論文を発表する傍ら、様々な企業との共同研究のみならず、事業やベンチャー企業の立ち上げにも携わり、実業家としての顔も持っておられます。

AIと社会の調和を目指し、人々の役に立てるために研究の道を邁進する川村先生にお話をうかがいました。


北海道大学大学院 情報科学研究科 調和系工学研究室 川村秀憲 教授

『今実現しているAI世界は昔から想像していましたよ』

 

Q:先生がAIの世界に入るきっかけは何だったのでしょうか?

 

もともと物を作ったりするのが大好きでした。工作少年というのでしょうか。そして小学2年生のときに、たまたま家にあったパソコンを触り始めたんです。最初のうちは、どれだけ複雑なプログラムであってもコンピュータが《その通りに》動くことが面白かったのですが、そのうちに自分の作ったプログラムが《全く自分の思った通りにしか動かない》ということが当たり前すぎて物足りなくなってきたんです。やがて興味は、《自分の作ったものが自分の想定外の動きをするようなもの》に移っていきました。当時はインターネットも無かった時代で、それが何であるのかもよく分からなかったのですが、どうやらそれを「人工知能」と呼ぶらしいと(笑)。

 

 

Q:驚くべき早熟ですね! ところで、「想定外の動き」とはどういうことですか?

 

オセロゲームの例がわかりやすいのですが、自分で作ったオセロゲームのプログラムと自分で対戦するとプログラムが自分よりもはるかに強いんですよ。つまり、プログラムが自分の想定を超えているわけですよね。オセロは例題としてとてもシンプルなのですが、最近のAIではディープラーニングで勝手に学習して勝手に進化して「すごいことになってしまう」ということがコンピュータープログラムで実現できるわけです。「できあがる最終形がどうなるか」は開発者にもわからないわけですよね。

自分たちで考えている理論やソフトウェアよりもはるか先をコンピューターが行ってしまう…。そういうものにすごく面白みを感じて、そういうことがやりたくて、大学進学する時にコンピューターサイエンスや人工知能をやっている情報工学・情報科学を選びました。そして、人工知能に関する研究ができる研究室に入って、その研究室にずっと残って今に至る。そんな感じです。

 

Q:先生が大学に進学してAIの世界に入ったのはどんな時代だったのでしょうか?

 

第二次AIブームが終わった頃ですね。

 

Q:AIブームには第一次・二次というのがあるんですか?

 

ええ。1960年前後にアメリカを中心として、「コンピューターにはすごいことができるかもしれない」「人間を超えるかもしれない」という気運があって、莫大な費用をかけていろいろな計算を研究しました。それが第一次AIブームと呼ばれていて、その頃に機械学習とかニューラルネットワークなどは既に理論化されているんですよ。でも、現実にやってみたら大したことはなかった(笑)。コンピューターの性能がショボかったので使いものにならなかったんですよ。それで一旦ブームは去りました。

その次には、「何となく学習して強くなる」という世界観ではなくて、「もっと様々なルールをプログラミングしていくことで知的な情報処理ができるのではないか」というAIに対する期待がまたしてもワーッと膨らんだ時期があったのですが、それが第二次AIブームです。1980年代~90年代ですね。ところが、そのやり方でもやっぱり大したことはできなかったんですよね。で、そうなると「AIは大したことないじゃないか」と思われ、ブームはしぼんでいったんです。

そのしぼんでいった後くらいに、私が大学に入っていろんな研究を始めたということなんですよ。

 

Q:第二次AIブーム直後という時代にAIの研究をすることは大変ではありませんでしたか?

 

インターネットのない時代で、AIブームとしての風潮も今とは違いますけど、研究室で先端の論文をたくさん読んだり、世界中の研究事例を多く聞いていたので、20年前でもできることはいろいろありました。まあ今とレベル感は違うかもしれませんが、私の場合、単純にAIの研究が面白かったというのが前提としてありますので、情報は貪欲に集めていましたよ。

そのおかげで当時から、「コンピュータの計算パワーとビッグデータによって、AIが急激に社会に浸透する技術になる」という未来がきてもおかしくはないと思っていました。今になって実現している世界が当時の想像の延長線上にはありましたね。

 

Q:すごい先見性です!

 

研究者としてやっていたからこそ未来が想像できていたのかもしれませんね。ただし、未来はイメージできていたけれども、やり方は分からなかった(笑)。それで、どうしたら良いのかと悩むわけですが、それこそが人工知能の研究者が第一次AIブーム以来、ずっと悶々と研究を続けてきた歴史なのです。

 

Q:今は「第三次AIブーム」になるのですか?

 

そうなりますね。第一次AIブームの頃に出てきた様々な理論が今の計算パワーとビッグデータと合わさって、「やっぱりすごいことができるかもしれない!」という感じで盛り上がっているんです。なんだかリバイバルみたいですが(笑)。

しかし、今のAIブームは、ディープラーニングをベースとするAIの技術によって「実際に人がやっているようなことを人と同じように処理することができる」という事例がたくさん出てきていますので、これは一過性のブームというよりは、「次の社会を作っていくための基礎テクノロジー」になってきていると言えます。「ブームはいつか終わる」と言っている人もいるのですが、私はこの先、AIはITと同じように社会の中で普通に使われて、「なくてはならないもの」になるというのは間違いないと思っています。

 

(次回に続く)

次回は、川村先生の研究所の取り組みやAIへのスタンスについてお聴きします。

 

 

詳しくはこちら

コメント

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 *が付いている欄は必須項目です

LATEST

MORE

COLUMN CATEGORY