『データサイエンティスト列伝 ~偉大な先輩に聴く~』 第一回 川村秀憲 教授(4/4)
2019.04.08
4回にわたってお届けした北海道大学大学院情報科学研究科の川村秀憲教授インタビュー。最後にデータサイエンティストへのメッセージをいただきます。
『データサイエンティスト列伝 ~偉大な先輩に聴く~』 第一回 川村秀憲 教授(1/4)
『データサイエンティスト列伝 ~偉大な先輩に聴く~』 第一回 川村秀憲 教授(2/4)
『データサイエンティスト列伝 ~偉大な先輩に聴く~』 第一回 川村秀憲 教授(3/4)
『オタクがAI時代を生き抜く!』
Q:AI化がますます進行する世界の中で、データサイエンティスト達はどんな役割を担っていくのでしょうか。
今、日本で起こっている課題にはいろいろあるわけですが、その中でも《ニッチにある問題》のようなものをITやAIの力を使って解決していく世界になっていくのだろうと思います。具体的には、東京一極集中で解決するような課題ではなくて、地方の課題のように「あまりマスで取り組むのではない課題」ですね。
世の中の科学技術はものすごい速度で進化しているわけですが、それが具体的に我々の社会を便利にしていくという次元で考えれば、例えばシリコンバレーの企業が来て解決してくれるというわけではありません。彼らはできるだけマスでプラットホームを作って、世界中に共通する解決策を広く安く提供するという発想でやっているわけです。しかし、我々が解決しなければならない課題は現実レベルで個別にたくさんあります。データサイエンティストになるような人たちが向かって行くべきは、そのような課題だと思いますね。
Q:そのためにデータサイエンティストは、どのようなスキルや意識を身につけるべきでしょうか?
世の中のいろいろな問題をよく考えること。自分の仕事に関する事柄に限らず、世の中には多様な矛盾や課題問題があるわけですし、自分の会社の中にも家庭にもそれはあるはずです。それらの問題を抽象化して整理してロジカルに解決策を考えるということこそが、その問題を解決することになるのだと思います。「抽象的に」というのは「曖昧に」という意味ではなくて、「抽象度を上げる」ということなのですが、抽象度を上げたものに関してロジカルに解決策を考えるというトレーニングを繰り返していけば、一見違うような話の中からでも共通点を見つけ出して、その共通点の中から解決するということが身につきます。
そして、課題解決の手法をリアルに落とし込んでいくわけです。我々の研究室の例で言えば、「強化学習させるためにはこの数式で表さなければいけない」とか「必要なデータを集めて…」とか、最終的には研究に落とし込んでいきます。
Q:そのためにはどのような勉強をしたらよいのでしょうか?もしも今、先生が新人のデータサイエンティストだったとしたら、どこから勉強を始めますか?
重要なのはやはり数学だと思いますね。データサイエンスとは、つまりは数学をコンピューター上で処理して結論を導くということに他なりません。ですから、数学的な素養と科学的な素養は必須です。
そういった基礎がないままに、《よくある手法》を適用してコンピューター上で計算して数字が出てきて…と、それでなんとなくデータサイエンスをやっているつもりになっている人が多いような気がするのですが、その計算式の意味や数式が導く結果を本当に正しく理解できていないと《出てきた数字》の解釈もおぼつかないはずです。
つまり、数学的な素養やロジカルに物事を考える素養というのが土台としてあって、その上に技術があって、それではじめてデータサイエンティストと名乗れるのだと思います。そのサイエンスの部分をおろそかにして、確率統計などをきちんと勉強していかなければデータサイエンティストは名乗れないはずです。
Q:これからのAI時代を生きていく「今の子供たち」こそがデータサイエンティストの卵なのだと思いますが、彼等にはどのように教育をしてあげるべきなのでしょうか?
「データサイエンティストの卵」と言うよりは、子供全般の教育ということになりますが。
教育機関は、基本的には皆で同じリテラシーを身につけて、「最低限これは皆でできるようになりましょう」ということを教育しています。それはつまり、人の能力やリテラシーを均一化することで、担当する人を入れ替えても仕事や職業がきちんと機能して維持されるようにしているわけです。だから、「皆と同じようなことを皆と同じようにできる」ということが重要だったのです。
ところがこの先、誰もが担当できるような基礎的な能力ならば、ロボットやAIに置き換えることが可能になるわけです。そう考えると、これまでの教育は「ロボットみたいなことを人にやらせるために均一的な能力を付けさせていた」とも言えますね。
これから先、人間には《独自性が高く突き詰めていく能力》が求められていくはずです。例えば、「そんなことはオマエしか考えていないよな」とか「そこに注目して朝から晩までやっているヤツなんて世界中でオマエしかいないよ」といったものですね。しかも、別の人は別の人で全然違うことに集中して、各自がバラバラに多様性を持って、それぞれの領域で深く考えて突き詰めていく。まさに「オタクの世界」ですが、そのような人が生み出すものは当然AIに置き換えにくいわけです。
Q:未来にはオタクが生き残っていく(笑)?
ええ(笑)。だから、大人の言うことを聞いて、「皆ができることを目指す」というよりは、「キミしかできないことが何なのか」ということを真剣に考えて、世界の誰よりも負けないということを追求できるか…、それが重要です。だから、人はもっともっと自分の好きなことをやるべきです。その方が伸びるものですしね。
今はまだ世の中の変わり目なので、そういう発想を手放しで賛同してくれる人は少ないし、いざ自分の子供をどう育てるかという視点になったときに、我が子に向かって「オマエは朝から晩まで学校の宿題なんてしなくていい!」と言うのは難しいと思うんですけど…。
でも、この先はそういう世界になっていくと思うんです。今の小さい子が大人になるころには、《AIにもやれること》を同じようにやれたとしても大して価値はなくて、《世界中でキミにしかできないこと》こそが意味を持つようになるのだと思います。
Q:ちなみに先生はそのようにお子さんを育てていらっしゃいますか?
いやいや、そうは言いつつ、なかなか…。家では子供に冬休みの宿題をやらせています(一同笑)
川村先生、ありがとうございました。
今回の貴重なインタビューを、読者の皆さんがご自身のデータサイエンティストとしての在り方を考える上で参考にしていただけましたら幸いです。
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