『データサイエンティスト列伝 ~偉大な先輩に聴く~(第二回)』 山田誠二 教授(2/4)

2019.07.29

先生がAIと出会うまでの「意外な道のり」についてお話いただきました。

『動物や音楽への関心からAIに転びました(笑)

■先生のAIへの目覚めはいつごろですか?子供の時から何らかの資質がありましたか?

 

いいえ。特にAIに関心があったわけではありませんでした。「理系の方が向いている」という思いはありましたが、それも、現国よりも数学の方が点数が良かったから…というだけの理由で (笑)

むしろやりたかった仕事と言えば、ジャングルに行って動物の観察をしたいとか、音楽のスタジオエンジニアになりたかったんですよ。

 

■それはまた…まったく方向が違いますね。

 

高校生の時に,同じレコード(サージェントペパーズ)を四枚買うくらい熱中してビートルズを聴いていた時期がありまして(笑) 自分でもカセットテープの4トラックレコーダーを買って多重録音でデモテープを作ったりしていたんですよ。ええ、リズムボックスとかシンセサイザーを使って、自分でギターとボーカルを担当して。

それに、動物が大好きで。人間よりも好きなくらいなんです。

 

■とても幅広い興味ですね!

それから、他に好きだったことと言えば…中学生の時に再々々々々放送ぐらいで放送していた『スタートレック』が大好きだったんですよ。

これは画期的なSFドラマでした。それまでのSFに登場する宇宙人や宇宙生物は、地球上に存在する動物や人間に近いような外見を持っていたわけですが、リアルなことを言ってしまえば異なる環境の生物が同じ構造になるわけがないですよね。ところが、『スタートレック』には生物とさえも思えないような特殊な外見の宇宙生物が出てくるなど、切り口が違うんです。それがとても面白くて。中でも私は「ミスター・スポック」という登場人物が大好きだったんです。スポックは電子回路が得意な…言ってみればエンジニアだったわけですよ(笑) そんなミスター・スポックに憧れました。尊敬と言った方が正しいかもしれません。

そして、そんなミスター・スポックへのリスペクトが高じたのか、電気・電子の方向に進みたいと考えるようになりました。そこで、大阪大学基礎工学部の制御工学科というところに進学して「制御理論」をやることになったのです。

「制御理論」というのは簡単に言うと数学なのですが、例えばハンドルを切り過ぎたら戻すとか、切り過ぎを予測してそこまで切らないとかの「制御」を研究する学科です。

 

■なかなかAIが出てきませんね(笑)

 

大学に入るまでAIに格別な関心はなかったので(笑) 大学を選ぶ上でAIが条件になるということも一切なかったんですよ。

ところが、大学の4年生ぐらいに突如現れるんです、AIが(笑)

簡単に言うと、4年生になって卒論研究をやるために配属された先がロボットに関して世界的に有名な辻三郎先生の研究室(正確には,辻研の中の別研究室)だったのです。

 

■AIに急接近しましたね!

 

いえ、まだまだです。AIではなく、ロボットに近づいただけですから(笑)

辻先生の研究室では、「移動ロボットをどう動かすか」とか、カメラで物体認識する「ロボットビジョン」などに取り組んでいました。そして、その研究室にいらした安部憲広先生(当時は助手)がAIの専門家だったのです。その先生のお話を聞いていると、自分がやりたかったはずの電子とか電子回路よりも全然面白そうだなあと思えたんですよ。それまでコンピュータにもあまり興味がなかったわけなのですけど、そこから…AIに転びました(笑)

 

■転びましたか(笑)

しかしながら、卒論のテーマは別の教授についていたので全く別のことをやっていたのですが、「AIの方が面白かったな」という思いが募り、教授にAIの方に移りたいと願い出たところ、教授は「うん、まぁ、その気持ちはよくわかる」と納得してくださって。修士からAIの研究に移ることになりました。そこから博士までの5年間でずっとAI関係をやって、卒業してからも何十年にわたってAIをやっているというわけです(笑)

 

■時期的には第二次AIブームから第三次ブームへの狭間になりますか?

 

私が大学院を出た頃が第二次ブームの終わりかけですね。…とは言うものの、実を言って、当時はブームになっているという意識はありませんでした。大阪大学にいましたので、大阪と東京の温度差があったというのも事実ですし、「ブームだからAIをやる」という考えが私にはまったくありませんでした。純粋にAIが面白そうだと思ったのが動機ですね。

 

■どんなところが面白かったのですか?

 

コンピュータが自分で考えること、人間の相手をしてくれること…それはコンピュータの使い方としては、「究極の目標」のひとつだと思うんですよ。ところが、実態としては二進法の計算に過ぎないものが、プログラムの書き方によって人間の思考に似たようなシミュレーションまでできてしまう。そのことがとても面白かったですね。その面白さがずっと続いているので、ブームとは関係なくずっとやっています(笑)

 

■先生がAIに携わった時期と現在を比べて、大きな違いはありますか?

 

当時の論文はすべて紙媒体だったため、簡単には読めませんでした。論文集や論文のもとになった書籍を買うか、図書館に出向くか、はたまた、どこかで論文を手に入れてコピーするかといったことをしなければならなかったんですよ。今ならばネットからPDFですぐに落とせるんですけどね。だから、論文のサーベイは,ものすごく効率が悪かったわけですね。今とは比較にならないくらい。

また、プログラミングにも大きな違いがあります。今は有名なアルゴリズムのほとんどがライブラリで無料公開されていますから、それを持ってきて組み合わせるだけでかなりいいものが出来てしまうわけですが、20年ぐらい前までは全部自分でプログラムを書かなければなりませんでした。

 

■現在はかなり楽になっているということですね。

 

ええ。しかし、だからと言って研究のクオリティ自体が上がっているかと言えば、それはまた別の話だと思います。これはプログラミングに限らない話なのですが、ネットで膨大な情報にアクセスすることの敷居はものすごく下がったわけですけど、だからと言って過去に比べて「ものすごいイノベーション」が起こっているかと言うと、そうでもないというのが実情です。

つまり、環境の良し悪しは直接は関係しないということです。どちらかと言えば、環境的に制限されている方がイノベーションが起こっているくらいです。特に日本ではそれが顕著ですね。なぜならば、欧米の情報に影響されすぎて、それの後追いをしてしまう傾向が日本の研究者には非常に多いからです。

 

次回は、AIと人間が共存する未来像についてお聞きします。


『データサイエンティスト列伝 ~偉大な先輩に聴く~(第二回)』 山田誠二 教授(1/4)

 

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