『データサイエンティスト列伝 ~偉大な先輩に聴く~(第二回)』 山田誠二 教授(3/4)
2019.08.05
AI社会に向けて、人間はAIをどう認識すべきなのか、そして、どのようなスタンスでAIと共存していくべきなのか…というテーマについてお聞きしました。
「AIは「コンビニのおでん」が苦手なんですよ」
■「AIの発達や普及によって脅かされる職業があるのではないか」という議論がありますが、先生はどのようにお考えですか? 逆にどうやってもAIには追い付けない職業というものはありますか?
最初に言っておきたいことは、AIはなかなか人間と同格には並べないということです。
例えば、AIにとって「常識を持つこと」は非常に難しいという問題があります。言い方を変えると、あまりにも大量な知識をAIに教え込ませることは無理だということです。それは機械学習をしようが何をしようが無理なんです。
だって、考えてもみてください。何千億個体もの生物が何十億年もかけて進化して獲得した各々の解というものがあるわけですが、たかだか何十年程度の研究や、もっと短いディープラーニングで同じような答えを出すというのは無理な話です。桁が違い過ぎるわけですからね。
つまり、AIは人間のようには常識を持ち得ないわけですが、その「常識の有無」がモノを認識する上で大きな差異を生み出します。
では、人間が簡単にやっていることがAIには意外にも難しいという例をお話ししましょう。
(机の上にいろいろなモノを置いて)
例えばですが。ここにいろいろなモノがありますね。これを見たときに、人間は「これをどうつかむか」と一瞬で判定することができます。「ボールペンの芯の部分を触ると手が汚れてしまう」とか「このキーホルダに指紋をつけないためには、この部分をつかめばいい」とか「どこをつかめば安定して誰かに手渡せるか」などを瞬時にプランニングできるのです。しかし、機械にそれはできません。モノを見て瞬時に「それが何のか」と認識することが完全には出来ないからです。
■人間にはわかるのに、AIは何故わからないのですか?
人間は「機能」を理解できるということが大きいですね。形や構造から瞬時に機能を理解できるのです。例えば、最近では駅のホームにパイプだけの形状の椅子がありますよね。あの形のものがホームにあれば人間は椅子だと認識しますし、それが道路にあればガードレールの役割のものだと判断します。つまり、基本的な構造が同じ物体であっても、脈絡や状況(コンテクスト)によって変化する意味や機能を理解できるのです。それが、人間が常識を持っていることの優位性ですね。
構造と機能の関係性については何十年も議論されていて、養老孟子さんは「脳は構造であって、心は脳の機能である」という哲学的な言い方をしておられますけどね。
■機械には意外な弱点があるのですね。
もっと言えば、ロボットは致命的に「接触する作業」が苦手なんですよ。触感からモノの状況をきめ細かく判断するようなこともできないし、重いものを効率的に持ち上げることも難しい。
モノを瞬時に判断できず、モノをつかみ上げることも苦手となれば、例えば、コンビニでお客さんが指定した「おでんの具」をつかみ上げて容器に入れるなどといった作業は現時点では不可能なのです。
■「コンビニのおでん」がですか!? それは意外でした。
それでは、今後AIはどのような現場でどのように使われていくのでしょうか?
期待を込めて言うならば、「意思決定」の場面でもっと使われるべきだと思います。
例えば、今、米国DARPA(国防高等研究計画局)が「eXplainable AI(説明可能なAI)=XAI」のシステマティックなファンディングを実現しています。もっと身近に考えられる意思決定で言えば、「今日の夜は何を食べよう」というところから始まって、経営の現場ならば「これから10年間、どんな事業で儲けるのか」とか「どの方向に会社を持っていくべきか」などですね。それらの意思決定は、基本的には人間がやっているわけなのですが、情報集めや情報の整理といった工程はAIに任せたらいいと思います。つまり、情報を集めて、グラフや要約という形でとりまとめて提出するという工程のことです。
ただ残念ながら、今のところAIにできることは「抄録(原文から要点を抜き出すこと)」どまりなので、人間並みの「要約」ができるようになる必要がありますね。「要約」については、今、いろんな方法でトライ・アタックされています。
■そのようなAIと共存していくために、これから人類はどのような意識で生きていったらよいのでしょうか?
今、インターネットは使っていることを意識させないようなインフラとして普及していて、ごく自然に人間の知的作業の一部を担っていますよね。希望もこめて言えば、AIもインターネットと同様になっていくだろうし、同様になるようにしないといけないと思っています。
しかし、そうなってくるとAIに依存してしまうようなネガティブな面も出てくるかもしれません。また、AIを使える人と使えない人のデバイド(格差)も出てくるでしょう。「AIデバイド」ですね。つまり、「AIを使ったビジネスマン」と「AIを使わないビジネスマン」という違いが出てくるということです。その場合、効率には圧倒的な差が出てしまうでしょう。
ですから、今、企業は(或いは個人は)仕事を最適化するために、仕事のどの部分が費用対効果的に見合うかたちでAIに代替できるのかということを真剣に考えて実際に代替していくべきなのです。それでないと、「考えた企業の最適化」と「考えていない企業の最適化」では大きな差が出て、まさにデバイドになるでしょう。
企業や個人の仕事が丸ごとAIで代替されることはあり得ませんが、仕事の一部は代替されていくということを自覚してしっかり考えていくべきですね。これは家庭も同様です。例えば、お掃除ロボットなどによって、代替できる部分は代替して仕事の最適化を図るべきだと思います。
そうやって、人間の仕事をサポートさせるツールとしてのAIと協調していくことが重要ですね。
■では、これからのAI時代を生きていく子供達をどのように導いたらよろしいでしょうか?
まずはプログラミングを学ぶべきだと思います。
プログラミングを学習するということは本質的には「論理的に物事を考えることを勉強する」ということです。何故ならば、プログラムは完全なロジックのものしか走らないわけですから、どうしてもロジカルに考える必要がありますよね。
AIに限らずビジネスではロジカルに考えて、ロジカルに説得したり説明したりすることが非常に重要なわけですが、緻密で完全なロジックを組み上げる習慣を身につけるためには、プログラミングがいいトレーニング材料になります。
プログラミングに関しては、インドなどの国が日本に比べてはるかに高いクオリティを示しており、日本は本当に遅れをとっている状況です。その問題をなんとかするためにも、多くの子供達がプログラミングを学んでほしいですね。
次回は、山田先生からいただいた「データサイエンティストを目指す皆さんへのメッセージ」をお届けします。
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