『データサイエンティスト列伝 ~偉大な先輩に聴く~(第二回)』 山田誠二 教授(4/4)

2019.08.26

最終回は、山田先生からいただいたデータサイエンティストおよびデータサイエンティスト志望者のすべてが必読の「辛口アドバイス」をお届けします。

 

「研究は価値観が近い人たちとのセッションで!」

 

■データサイエンスやAIに携わる人材の資質は何であるとお考えですか? また、その資質は山田先生ご自身の中に認められますか?

 

質問の回答になるかどうかわかりませんが…、

前提として、私の中には「ブームになっているようなものは避けたい」という価値観があるんです。

これはデータサイエンティストに限らず、すべての研究者に対して言えることなのですが、まずは、自分の価値観をしっかりと持つことが重要です。世の中に既にある価値観を疑ったり、それを潰していこうとか、乗り越えようといった意識をしっかりと持つべきです。そして、大衆に迎合しないこと。

そのような思考ができること、それこそが「あるべき資質」ではないでしょうか。

 

■「ブームになっているものを避ける」ということに関して、もう少し聞かせてください。

これは強く言っておきたいのですが、すでにブームになっている時にそのフィールドで物事を始めても遅いのです。《真のフロンティア》や《トップランナー》であるためには、ブームの20年前ぐらいには、はじめておかないとダメなんですね。

例えば、ジェフリー・ヒントン先生という、ディープラーニングの世界では「ゴッドファーザー」と言われている人がいますが、ヒントン先生は30年以上前からずーっとニューラルネットワークの研究を続けてこられたわけです。その30年間には「ニューラルネットワーク冬の時代」が二回か三回あったにもかかわらずです。そして、教授からはことあるごとに「ニューラルネットなどというテーマはやめろ」と言われ続けたにもかかわらずです。あの粘り強さが無ければダメだと思います。

AIの世界に限らず、山中先生をはじめノーベル賞をとられた方々は皆さんおっしゃいますよね、「周りがやっていることを一緒にやっていたら絶対にダメ」だと。

どちらかと言うと、逆方向の「誰もやってないこと」の中にこそ、「続けて探求すれば,すごい結果が出る」というものがあるんですよ。もちろん、「誰もやってないこと」には相当の難しさがあるし、結果が何も出ないからこそ手をつけられていないケースも多いのですが、それを嗅ぎ分ける嗅覚こそが研究者の本質なのだと思います。そして、やはり大事なことは粘り強さですよね。

 

■なかなか孤独な作業ですね…

 

孤独と言えば…、

私はもう20年くらい研究の世界にいるわけなのですが、強く実感することは、テーマを考える時など一人ではなかなか浮かばないといことです。

そんなときには、同じような価値観の人達とブレーンストーミング的に話をすることが有効です。例えば、そういった人達と実際に二時間会って話をしていると、一人で二時間考えていても絶対に出ないような発想が出てきます。これがテレビ会議だと不思議なことにあんまりでないんですけどね…。

 

■そういうものですか(笑)

「同じような価値観の人」とは具体的にどのような人なのでしょうか。

 

「根っこの考え方」が一緒の人です。私の場合であれば、「流行りはやらない」という考え方をもった人。ただし、考え方までまったく一緒になってしまうと、広がりがなくなってしまうのでよろしくないのですが、「根っこ」の部分を重視しますね。

そうそう、いい見分け方があるんですよ。

 

■ぜひ教えてください!

 

人の研究を見たときに、「どこをけなすか」が共通していると、だいたい価値観は一緒ですね(一同爆笑)

そして、そういった人たちとブレーンストーミングをすると化学変化のような効果が期待できます。あれは、ちょうどバンドの演奏に似ているかもしれませんね。演奏者個々が単独で楽器を弾いている状態に比べて、バンドで集まって演奏すると素晴らしいサウンドになる…という化学変化ですね。ビートルズもレッド・ツェッペリンもまさにそうでした。

 

■セッションなんですね!

 

そうなんですよ。音楽の世界のセッションによる化学反応と同質のものが、研究者の世界でもよくあるんです。ただし、繰り返しになりますが、参加するメンバーはその根本で美意識とか価値観が共通しているということが前提条件になりますね。

それから、大事なことがもうひとつ。

先ほどから「流行りのテーマには乗らない」「自分の価値観を持て」ということを話していますけれども、そのような価値観の人は往々にして気難しかったりして…まぁコミュニケーションが下手だったりするものですよね。その意味では、価値観とコミュニケーション力のバランスが取れているということが重要です。

 

■それでないと、ただの「変わり者」になってしまいますね。

 

そうなんです。でも、どうしてもコミュニケーションが苦手という人もいますよね。そんな場合には、コミュニケーションが巧い人と一緒にチームを組むのもいいですね。

「ワトソン&クリック」などは、それに近い関係なのではないいでしょうか。フランシス・クリックに比べて、ジェームズ・ワトソンは非常にマネジメント能力が高く、とてもバランスのとれた理想的なチームになっていました。

※注:ジェームズ・ワトソンとフランシス・クリックは共同でDNAの二重螺旋構造を発見し、そのことが後の分子生物学の飛躍的発展に繋がり、1962年にノーベル生理学・医学賞を受賞した。

 

■データサイエンティストの方々にメッセージを!

仕事を変えた方がいい!(一同爆笑

 

 

 

冗談はさておき…。

自分の価値観をしっかりと持って、ブームに迎合することなく、コツコツと地道に研究を継続すること。

ただし、一人でやるのはとてもきついことですから、似たような意識の人を探し出してください。そんな人が必ずいるはずですから。そして、彼らと一緒にグループやチームになって、皆で頑張っていってください。

そして、周りから何と言われようが、気にせずにやり続けるという意気込みが欲しいです。最近、若手と会っていても、そのような気概をなかなか感じられません。

言ってしまえば、ディープラーニングが流行っているからといって、じゃあジェフリー・ヒントン先生のところに会いに行くという発想の人がいますけれども、それじゃダメなんだよな、と(笑)

オマエがヒントンにならなきゃダメだ!会いに行ったってヒントンにはなれない!

ヒントン先生から学ぶべきは、30年間にもわたって流行りすたりとは関係なく地道に研究を継続してきたこと。それは地道ではあったけれども、ちゃんと前進しつつやってきた。その姿勢を真似しなさいと言いたいですね。

 

■山田先生は、第二次AIブームの終わりかけの時期にAIの世界に入ったとのお話でしたが、仮に第3次AIブームと呼ばれている今の時代に先生が新人だったならば、どのような勉強から始められますか?

 

うーん、天邪鬼なんで,AIはやらないかな~!(一同爆笑)

 

山田先生、ありがとうございました。

今回の貴重なインタビューを、読者の皆さんがご自身のデータサイエンティストとしての在り方を考える上で参考にしていただけましたら幸いです。


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